我々のほか誰もいない高原のキャンプ場に夜のとばりが降りて、一時は満月も見えていたのに、夜半には雨がテントの幕にしとしとと音させて降って来ました。
寝袋の中にすっぽり入りながら、小さな雨音と沢の流れの轟という音を聞きながら眠りに着きました。
ワンコは至って静かです。
いつもと様子が違って、なぜかどこか瞑想的なほど沈黙しています。沢の瀬の音でf/1のゆらぎに癒されているのでしょうか。
小用に立った後、寝袋に戻ってもまた再びなかなか睡魔がやって来なく、しばらくのあと、幕外がうす明るくなっているのに気がつきました。
ああ、もう夜明けが近いのか、と、どうせ眠れないのなら外へ出てみようと、またもぞもぞと芋虫のように抜け出し、カメラを持って池の様子を見に行きました。
雨は上がって、東の空が朝焼けに少しだけ染まりはじめていました。
池はまだほの暗く、沢の音とともに、湿った大気が風に乗って動いています。
そのとき、誰もいないはずの池畔で間近に黒い人影が見えて、思わずドキッとしました。
どうやら、この夜明けの風景を狙って、カメラマンが撮影場所を探しているようでした。
お互い撮影ポイントは侵すべかざると、別々の方向へ移動して行きました。
カメラマンは、下界が見下ろせる東の突端の方へ行ったようです。
自分は、上の方にあるツリーハウスへ登って、辺りの景色を撮りはじめました。
東の太陽が昇る方角の空が茜色に染まっています。
雲海は、佐久穂町が見下ろせるあたりにたなびいているようでした。
さすが標高1300メートルです。雲海を上から望めるとは・・・。
朝日が姿をあらわしはじめ、雲の陰影が劇的な様相を見せはじめました。
眠れないのでちょっと外へ出てみただけなのに、どうもとっておきの、早朝の自然界のドラマチックな現象を見せてもらうことになったようです。
こういう木々のシルエットと空の濃淡のコントラストにはけっこう目が行くところです。
何かを予兆させるような雰囲気がありますね。
モルゲンロート(Morgenrot)という山岳用語が頭に浮かびます。
「夜明け前に高い尾根筋がまず太陽の光を受けて赤く輝くこと。」の意のようですが、まさに池畔の森がそうなっているところです。
一刻、一刻と、光の状態は変化していきます。
もう赤く焼ける光は止んで、白樺の幹を際立たせる透明な光が辺りを照らし出しました。
空はもう明るく澄んで、池にもその空が映り込んで来ました。
いつもより低く張ったムササビタープが妙に絵になります。
我がサイトの向かいの岸まで来ました。
バイケイソウでしょうか?
黄緑の葉に光が透過して、鮮やかなグリーンがとてもきれいでした。
対岸のテントの中では、まだツレとワンコは夢の中です。zzz...
こういう光景は、どこか童話的な世界に見えて来ます。
八千穂高原での、あるファンタジックな朝を見させてもらったようです。
―つづきます―