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伊豆に住み、八ヶ岳を巡り「空と森と水」の美しい風景を求めて・・・。 自然に包まれて暮らそう!---Martinのフォトエッセイ
by martin310
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映画『萌の朱雀』 ─みちるの家へ行く─

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    ▲映画『萌の朱雀』の舞台/みちるの家に使われた建物(今も現存する)


映画『萌の朱雀』/ロケ地探訪

◆赤い屋根の家
この赤い屋根が印象的な民家は、河瀬直美監督の映画『萌の朱雀』の舞台となった建物です。
この映画を一度でもご覧になった方なら、家族の食事する開け広げた茶の間から、広大な山々を眺められるこの家は、いったいどこに建っているんだ?という思いを抱くことでしょう。
まるで天上の風景のような山の景色の中で暮らす家族の、その舞台となった家は実際どこにあるのだろう?行ってみたい、そして、この眼前にある山に現場で対峙してみたい、そう私も思っていました。
この奈良県の旧西吉野村の、ある家族の物語を編んだ映画の中で、この家の持つ意味と魅力は重要な核となるものです。
この赤い屋根の家が、この高さの標高にあることと、これらの西吉野の山々に包まれた風景の中に存することが、物語の彩の基調をなし、そこにいる人たちの存在を光あるものに仕上げていると思えるからです。

吉野は、いわゆる吉野千本桜の吉野山ということで何度も歴史探索の折に訪れていた経緯もあり、また、西吉野にしても、熊野や十津川への旅の帰路に、この西吉野を通って奈良に出るコースはよく使ってもいたことから、奈良県五條市西吉野町平雄を探し当てることはさほどたいへんなことでもありませんでした。
もっとも、日本中、どこであってもカーナビを装備せずも、わずかな地図たよりに如何なる場所にも辿り着ける自負のある自分は、必ず見つけるという自信が最初からあったものでした。
というのは、思ったより凄い山の中なのです。車のすれ違いはほとんど出来ない農道を、どこまでもどこまでも枝道に迷わされずに登って行かねばなりません。
頼りは自分の長年養った勘しかありません。そんな険しい山道の先に、これだけの展望の開けるところがあるのです。

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◆『萌の朱雀』/概要
この映画は河瀬監督が、それまでの自主制作の8mm作品を離れ、初の35mmで撮った最初の商業作品として制作されたもので、この作品により1997年第50回カンヌ国際映画祭カメラ・ドール(新人監督賞)を史上最年少で受賞し、第26回ロッテルダム国際映画祭国際批評家連盟賞 や芸術選奨文部大臣新人賞など、数々の受賞を果たした名作映画です。

『萌の朱雀』-予告編-



a0282620_2048827.jpg 1997年 WOWWOW/バンダイビジュアル 95分
[監督/脚本]河瀬直美
[プロデューサー]仙頭武則/小林広司
[撮影]田村正毅
[音楽]茂野雅道
[出演]田原孝三:國村隼
    みちる:尾野真千子
    幸子:和泉幸子
    栄介:柴田浩太郎
    泰代:神村泰代
    栄介(幼少期):向平和文
    みちる(幼少期):山口沙弥加

※出演者で俳優は國村隼と尾野真千子だけで他はすべて素人の方たちです。
 また、尾野真千子はこの映画が初出演で、演技経験もはじめて、ですがこの作品で女優として第10回シンガポール国際映画祭主演女優賞などを受賞しています。
*萌の朱雀 [DVD] Amazon

<ストーリー>
奈良県西吉野村。林業低迷で過疎化が進むこの村で、田原孝三(國村隼)一家も代々林業で生計を立てていた。そこに、鉄道を通すためのトンネル工事計画が持ち上がる。鉄道に対する人々の想いは切実で、孝三自身も自らの夢をかけてトンネル開通作業に携わる。

孝三の母・幸子(和泉幸子)、妻の泰代(神村泰代)、姉の残していった子供・栄介(向平和文)、そして愛娘みちる(山口沙弥加)に囲まれた、つつましやかながら幸せな生活は静かに過ぎていった。しかし、工事は中断され、トンネルは無惨な姿で取り残される。

15年後、孝三は働く気力を失い、一家の生計は、栄介(柴田浩太郎)の収入に頼らざるを得ない。みちる(尾野真千子)は"えいちゃん"と兄のように慕ってきた栄介にほのかな恋心を抱き、栄介は泰代に"母"を重ねて想いをよせる。ある日、孝三は愛用の8ミリカメラを持って出かけたまま帰らぬ人となった。そして一家はそれぞれの哀しみと想いを秘めたままこの地を離れ、それぞれの"生"に向き合いはじめる・・・。


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◆映画のプロローグ
映画のプロローグは、大風に揺れる樹々の映像からはじまります。
風の音にピアノのシンプルな和声が重なります。

この導入部だけで、この映画の「世界」に早くもグッと引き入れられます。
私としてはこの部分だけで、この作品世界の半分は胸に届いていた気がするほど、強力な創造世界が宿っていると思えます。
もともと、樹木の枝葉が風に揺れる情景に最も心惹かれるものを持っている私としては、この最初のワンシーンでドンと宇宙の律動のような森の風を受け、その音と音楽で感性的ショックを与えられた気がしたものです。
それを知ってか知らずか、最初に使った河瀬監督の映画人的センスの卓越さを思ったのでした。しかも、この音楽をつくった茂野雅道という作曲家に、天を通じた何かを感じたのが真実のことです。

映画のタイトルの『萌の朱雀』について、ちょっと記しておきます。
不思議な音のするタイトルですが、実に意味がわからないものでもあります。
そういうネーミングがひとつの特徴の監督作ですが、「萌」とはいわゆる「若葉萌えいずる」という深緑の季節・・・西吉野の初夏、という意味でしょうか。
次に「朱雀」ですが、京に都があった頃は京都を中心として、東西南北の都の守りを施してあったようで、吉野は古くから”京の南”の要衝であったわけです。
東西南北の四神は、青龍・白虎・朱雀・玄武、その朱雀は京の南方。つまり吉野を指します。よって「深緑の萌える季節の西吉野の物語」といった意味でしょうか。

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◆みちるの乗った屋根
この家へ辿り着いたとき、近くの斜面の畑で農作業するおじさんがいました。その日の作業を終えて軽トラに戻って来たときに話を伺うと、この家の持ち主の方でした。
おじさんはこの家で生まれ育ち、この風景は昔から変わらず毎日見ていたものだと、この地があまりに交通が不便な場所にあるので、今は下の車道の通る集落の方へ家を建て住んでいるそうで、畑をやりに毎日登って来るのだと云ってられました。
この家は愛着があるので壊さずにおいたところに、河瀬監督からロケに使用したい申し入れがあって、映画に使われることになったそうです。
1997年の公開映画でありながら、いまだに見学者がちょくちょく訪れるそうで、なかにはこの家を売ってほしいという熱烈な映画ファンもいたそうです。

家の裏には小道が続いていて、映画の中でみちるが屋根に登って座っている光景を髣髴とさせる撮影位置があります。そこから撮ったものが上の写真です。


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尾野真千子は、今や説明する必要のないほど有名女優になりましたが、この映画に出演する前はこの西吉野のふつうの中学生でした。
河瀬監督がこの映画のみちる役を探しているとき、地元の中学校の下駄箱の掃除をしている尾野真千子に声をかけたことがきっかけで、主演女優賞を取る女優の道が開けたのです。
「初めて会った時のまっすぐな目を見て、この子なら出来ると思った」との監督の述懐にあるように、まさに運命的な機縁がそこに生まれたのです。
この女優の偉大な才能を直感する監督の才覚も凄いですが、この出会いを生んだ天のはからいに、何か見えない仕組みのようなものを感じざるを得ません。


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◆『萌の朱雀』の音楽
a0282620_20515838.jpg前述したように、映画のプロローグの時間にしてわずか数秒のフレーズが鮮烈にこの映画世界の全体像を予見させていると思います。
この作品における音楽の、映像との相乗効果で生み出す力はまったく無視出来ないものになっており、それに相まって心地よく耳に響く、風の音や虫の音、雷鳴や風鈴の音、子供たちの喧噪など、「眼」と「耳」を通じてかつて五感がため込んだ感性的記憶をいいように刺激して来ます。
ことに、孝三が死を決意して最後に自室でかける、古いLPレコードから鳴る曲は、まさに天上界の音楽に聴こえて来るのです。
作曲家の茂野雅道の紡ぎ出した天上の音楽は、古いレコードの溝が針をこする懐かしいノイズとともに、最上の癒しの調べを生み出していきます。
この音楽と懐かしさを含んだ映像が、ずっと胸の奥で生き続ける、ひとつの幻惑の病にかかるように、この魅力は永く糸を引きます。

*萌の朱雀 オリジナルサウンドトラック (茂野雅道)
※CDは既に廃盤になっている。iTunesから有料ダウンロードが可能。

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◆みちるの通った賀名生(あのう)バス停
五新線計画が廃止になった後、この線路を引く予定だった専用路線は、バス専用道として使われることになり、国道168号線とは別にそれと平行に走るように今もバス路線が運航されています。
賀名生バス停は、みちるが栄介のバイクに送られ、ここからバスに乗り込む場所です。また帰りにも、栄介のバイト帰りの迎えをここでひとり待っていたところです。
この短いトンネルのある不思議なバス停風景が、映画上心に残る地となります。

みちるの家のある平雄からこの賀名生までは、かなりの距離があります。
賀名生バス停は、「堀家住宅・賀名生皇居跡」をポイントにして探索し、発見しました。案外、まわりの風景から、映画で見た場所の予感はして来るもので、地図を頼りにするより、見た目で察知する勘の方が確かな場合もあります。


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映画のラストシーンは、みちるの家の柿の木に昇る子供たちの追憶のシーンから、クレーンのカメラはぐんぐん高さを上げ、遥か向こうに連なる山々を残して終わります。
この7月の萌える緑の山と空が、余韻を残し脳裡を掠め、やがてこの物語はいつしか胸の奥に棲みつくようになるのです。
そういうノスタルジアと感性の記憶を伴って、からだの中に詩情の城を築いていくような映画なのでした。

最後に、現場の山を前にして思ったのは、予想通り、この山の持つエネルギーがこの映画の背景を支え、日本のチベットと云われるような西吉野の山岳地帯から、世界へ向けての窓が開いた・・・、そう確信できる平尾の地の力を感じました。
歴史の数々の舞台であった東の吉野、そして西の吉野、そしてこの世界的名作を生んだ西吉野、これは単なる偶然などではない、この広域な地が持つ地の力、地場のパワーが生み出した快挙であると、そう私は信じるのでした。


a0282620_926752.jpgby Martin


[参考リンク]
*萌の朱雀 (Wikipedia)
*河瀬直美オフィシャルサイト 組画
*シネマ紀行・萌の朱雀
*尾野真千子 (Wikipedia)
*五新線 (Wikipedia)
*茂野雅道 and music ltd.
by martin310 | 2012-11-05 21:03 | 映画 | Comments(7)
Commented by roseyrosey at 2012-11-06 00:13
素晴らしいロケ地探訪ですね。感動しました。
映画のあらすじも、映像も、そしてお写真も・・・
今度、レンタルがあれば借りてこようと想います。
Commented by martin310 at 2012-11-06 09:38
★roseyroseyさん
たいへん嬉しいコメントをありがとうございます。(^^)

こんな超長文を読んでいただいてとてもありがたいと思います。
どうぞレンタルで観てみてください。
ちょっと見慣れたハリウッド映画などの
よく出来すぎた作品の対極にあるようなつくりなので、
まるでセミドキュメントのような
固定アングルで長回しみたいな映像に
最初はとまどうかもしれませんが、
どんどん引き込まれていく不思議な映画です。

ストーリーはあるようでないような、
よーく見ていないと家族関係がよくわからないような、
決してそれらが説明的ではありません。
私も何回も観て理解したような・・・。(^_^;)

でも、これが国際的評価になったとは。
選考委員長のカトリーヌ・ドヌーブの強い推挙によって
受賞に至ったそうで、
ドヌーブの見識眼も称賛したいですね。

Martin
Commented by ヨシダ at 2014-10-13 11:18 x
私も萌の朱雀は好きな映画ですが、ロケ地の西吉野を丁寧に探索されている文章を読ませて頂き、とても驚きました。
プロの方の映画評より勉強になり、嬉しくなりました。
ありがとうございました。
Commented by martin310 at 2014-10-13 13:45
ヨシダさん、嬉しいコメントをありがとうございます。

この記事を書いたのは、もうかれこれ2年も前になりますが、
真剣に拝読願ってうれしい限りです。

西吉野へはこのとき以来行ってはいないのですが、
つい初夏の頃撮られたこの映画のイメージを思い浮かべては、
また、その夏のはじめのこの地を見てみたいという思いが
湧き上がります。
それほど映像の一コマ一コマが、今も胸を熱くする不思議な
魅力のある映画なのだと思います。

今回、久しぶりに自分の記事を読み返してみましたが、
2年前の自分の西吉野への新鮮な思いが
今も残っているような気がしました。
今とは文体も内容も違うのですが、
こうやって過去ログといえるものを
今もって読んでいただけることはとても光栄なことで、
ブログをやり続けていてことのほか
ありがたく思えることでもあります。

ありがとうございました。

Martin
Commented by 風弘法 at 2019-08-14 19:14 x
シネマ紀行・萌の朱雀をリンクいただいている風弘法です。
みちるの家がどうなっているのか気になり、こちらのページへたどりつきました。
2012年時点ではみちるの家は現存していることが分かりましたが、すでに7年が経過しています。
果たして、みちるの家は今であるのか気にはなりますが、体調不良などもあって、確認へ行けません。
Commented by martin310 at 2019-08-14 21:54
風弘法さん、コメントありがとうございます。

この記事の2012年に、ロケ地巡りを出来たのは、
確か風弘法さんのサイトの情報を元にさせてもらって
叶ったと記憶しています。
そのとき以来、また行ってみたいと思いながらも随分と月日が
経ってしまったようです。

時に、私も同様に、あの赤い屋根のみちるの家はどうなったんだろうと
思い、ふとネット上の情報を探したりすることがあります。
映画の記念碑が庭先に建ったのは知っていますが、
その後はどうなのだろうと?
検索してみたところ、何と今年の4月にイベントがあったようで、
あの家は今も確かに現存しているようです。
この記事にあります。↓
https://blogs.yahoo.co.jp/sagashigaookuwa/29600999.html

このロケ地を歩くイベント、河瀬監督も尾野真千子女史も
ゲストで来ていたようです。

またゆっくりと、この西吉野の地を訪れてみたい気が高まって来ました。
ありがとうございます。

Martin
Commented by 風弘法 at 2019-08-17 10:09 x
お返事ありがとうございます。
皆さん、平雄のバス停から歩いて行かれたようですね。
わたしも、平尾バス停付近に車を止めて歩きましたので
大変懐かしいです。
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