「1943年5月の段階で、原爆は白人国家のドイツではなく、日本に投下すると決まっていた」
IWJ記事アーカイブより
http://iwj.co.jp/wj/open/archives/95556
2013年8月9日(金)18時30分より、長崎県長崎市の出島交流会館にて、映画監督のオリバー・ストーン氏とアメリカン大学歴史学教授のピーター・カズニック氏の記者会見が行なわれた。昨年、発表されたドキュメンタリー映像10部作と書籍『The Untold History of the United States(邦題:オリバー・ストーンが語るもうひとつのアメリカ史)』の共著者である両氏が、広島と長崎を訪れた印象や、核兵器、戦後のアメリカと日本の同盟関係などについて、質問に答えた。
IWJ Ustream録画映像はこちら⇒
http://www.ustream.tv/recorded/37058113
※掲載期間終了後は、会員限定記事となるそうです。
kaz hagiwara(萩原 一彦) @reservologicさんのTwitLongerより
10th August 2013 from TwitLonger
http://www.twitlonger.com/show/n_1rlraac
以下は、2013年8月9日、映画監督のオリバー・ストーン氏とアメリカン大学の歴史学者ピーター・カズニック准教授の長崎原爆記念式典出席後のマイナーメディア向け記者会見(http://www.ustream.tv/recorded/37058113)の翻訳です。記者による質問は簡略化してありますが、ストーン氏、カズニック氏の回答はできるだけ忠実に訳しました。
●質問:原水協の3つのイベントに参加した感想。
ストーン:ごめんなさい。今日はとても疲れている。とても暑かったし。
ただ、私の出たイベントに参加した人達は、歴史についての知識もあり、高い意識を備えた人達だったと思う。日本で出会える最高の道徳を持った人達だったと思うし、私の側にいる人々だと思う。
彼らと話していて興味深かったのは、私たちの歴史について話したときのことだ。もう聴いた人もいると思うが、私は日本人が自分の歴史について知っているかどうかに強い疑いを持っている。戦争が彼らの目を見えないようにし、痛みを感じないようにしたのではではないかと思っている。
私が知る限り日本政府は国民に情報をあまり与えていない。だから日本国民は戦争犯罪について知らずに来たし、日本の軍人にアジア人、なかでも中国人、韓国人、東南アジア人、それから捕虜になった白人、イギリス人やアメリカ人や他の国の国民がどういう扱いを受けたかも知らなかった。
日本人はそのように自分の歴史を否定されてきた国民だが、それはアメリカ人も同じだ。ピーター(カズニック)も指摘したが、アメリカ人も自分の歴史を否定されてきた。どうしてか。それは日本もアメリカも同じ軍隊に支配されてきたからだ。アメリカ人は自国の軍隊に支配され、そしてそれは今でも続いている。
米軍はすぐに日本を占領した。原爆のことを話すことをタブーにした。(アメリカのしている)戦争の事なんか全然話題にもできないようにした。それらの話題について、言わば厳しい検閲が行なわれている。ヒバクシャはひどい扱いを受け、長いことまともに医療も受けられなかった。放射能で人は死んで行き……それは大混乱だ。
再教育について話すと、ドイツでは戦後、国民に対する再教育があったが、日本では再教育がなかった。日本人は再教育される事もなく、アメリカがアジアで関わった対共産主義戦争の(チェスで使う)“ポーン”(将棋で言えば“歩”)として使われた。朝鮮戦争がすぐに起ったので、アメリカが対日政策を考え直す時間もなかった。
アメリカは日本を朝鮮戦争の発進基地として使い、それ以来ずっと、日本はベトナム戦争でも使われ、クウェートの戦争でも戦費の支払いに(財布として)使われ、イラク戦争のときも再び沖縄が使われた。私の見る限り、日本はいまだに自分のアイデンティティーと主権を回復するに至っていない。
日本では何代も首相が変わったが私には誰がだれかもわからない。ただ一人、社会主義者だか自由主義者だか、立ち上がって変えようとした人がいるが、何も達成できなかった。鳩山氏には東京で会う事になっていたと思う。彼は沖縄にとっての希望だったが、オバマが手を貸して鳩山を辞任させた。それが私の印象だ。
●岩上安身氏の質問:おとなしい日本人ががどうしてあるとき中国人朝鮮人に対して残虐になれるのかという点について。監督の本を読んでいて、日本は古くから帝国であったと気づいた。今、新しい大帝国アメリカと一体化しようとしている。それについてどう思うか。
カズニック:残虐性というのは、普遍的な問題だ。人はどこでも残虐になるようにできている。グアテマラで起った事は、まず兵士を意図的に虐待する。すると、兵士は残虐になり、民衆にひどいことをするようになる。赤ん坊を捕まえ、頭を岩に打ち付けたりというようなことを平気でするようになる。そんなこと、ふつうはどんな人間にできるだろうか。
米国について言えば、戦争は年々匿名性を帯びてきた。ますます非人間的で。ますます遠くで起るものになってきた。ユタ州や、カリフォルニア州に置かれた一室に座って、ドローン(無人攻撃機)をセットして、スクリーンに映る映像を戦闘ゲームのように見ながら、遠くにいる敵ひとりひとりを攻撃している。
私がベトナムで従軍した時は、戦闘はもっと敵と面と向かってやるものだった。今では敵の顔を知る事もない。
日本が第二次大戦で見せた残虐性は、戦争プロパガンダにあらわれていた。そしてそれはアメリカの行なったプロパガンダと平行線をなすものだった。アメリカは日本人の事をダニやゴキブリのような虫けら、またサルだと吹聴した。
一方日本もアメリカ人に対して同じような仕打ちをした、アジア人にはもっとひどいことをした。日本は明治維新でに西欧化しようとしたが、それは、他のアジア人を劣等で人間以下のものとして扱う態度を生んだ。
アメリカ人も日本人を人間以下に扱った。一回人間以下に扱えばもう二度と人間として扱うことはない。日本は中国人に対して、また朝鮮人に対してそういうことをしたわけだ。ベトナム人にもマレー人にもシンガポール人にも、さらに米国人、英国人、フィリピン人に対してもだ。
つまり、その同じ「非人間化」のプロセスが戦争において敵を憎み、殺す事を許すために行なわれた。
しばしばアメリカ人の間で一つの大きな疑問が話題になる、それはアメリカはドイツに原爆を落とす可能性があったかどうかというものだ。アメリカ人はドイツを人間以下と見なしていなかったのだ。そこが日本人に対する見方と違っていた。
ドイツに原爆を落とす事になったかどうか、我々にはわからないが、1943年5月5日(の原爆完成)以降、原爆のターゲットは常に日本だった。もし、爆弾が不発でも(サルみたいな)日本人にはそれが何か分かりもしないだろうと。…いや、本当かどうかわかりませんよ。
本当にそれが日本を原爆のターゲットにした唯一の理由かどうかはわからない。だって、ドイツは原爆が準備できる前に降伏していたから。日本に落としただろうか、ドイツに落としただろうか、オリバーはどう思う?
ストーン:ドイツには落とさなかったと思う。もし、どうしようもなかったら、つまりドイツが勝ちそうったら落としたかもしれない。でも、ドイツはソ連に負け続けていた。1942年以降、誰の目にもソ連が勝ちそうだと分かっていた。
岩上:オリバー・ストーン氏からひとことほしい。周囲の民族を見下すのが「帝国」そんな傾向をもった日米が軍事的に一体化しようとしている危険についてうかがいたい。つけ加えると、中国に対する脅威をしきりに煽りながら日本に兵器を買わせている。これは危険なゲームでは?
ストーン:日本がアメリカと対等な同盟関係であるか、小帝国であるかどうか、私にはわからない。物質的な意味では帝国かもしれない。日本は世界第三位の経済大国だ。しかし興味深い事に世界第4位の軍事予算を使う国でもある。だから、まあ、日本が軍事的な帝国かといえば、そうかもしれない。でもまだ完全にそうなってはいないと思う。
米国の軍事同盟と言うと、私は日本よりも英国を思い浮かべる。間違っているかもしれないが、英国はいつでも米国にとって最大の同盟国だったから。で、英国は小さい島国で、日本も小さい島国とという点では同じだが、日本がアジアの中でアメリカの主な同盟国だと思った事はない。
米国のアジアの同盟国はいつも環状をなしてきたと私は思っている。北から韓国、日本、台湾、フィリピンはとても大切な同盟国だ。台湾にはいつでも大量の大規模兵器を売っている。フィリピンの国土はきわめて重要だ。アメリカは完全にフィリピン政府を支配しているように見える。
日本については日本人が原子力と核兵器に対して忌避的であるという点がアメリカにとっての問題だ。そこは微妙な点で、とりあえず日本に圧力をかけることはできる。だがかければ日本の人々はそれに対抗して行動を起こすだろう。米国はそこまでバカではない。
沖縄問題は大変センシティブな問題だ。(軍の兵士による)交通事故、レイプ、殺人などもあるし、報道もされている。米国もバカではない。しかし米国は無慈悲でもある。
そして、日本、韓国、台湾、ベトナム、オーストラリアなどをつなぐ新機軸……、オーストラリアには潜水艦を配備するんだっけ……、そしてシンガポール、タイ、カンボジア……。
私は米国は今中国を敵だとは見ていないと思う。しかし、米国防総省は中国の脅威は増大していると見ている。私がここに来る前に寄ってきた韓国の済州島では、太平洋最大の海軍基地が作られつつある。
済州島軍港は水深が深いので、世界最新最大の核搭載空母ジョージワシントンが停泊できる。そしてその済州島は上海から500km圏内にあり主要なシーレーンを支配できる。だから韓国は米国にとって大変重要だ。
アメリカの戦略は、ピーターが言うように本当に出来上がった戦略で、先進的な基地をディエゴ・ガルシアに置き…、ああ、そういえば、インドも同盟に加わるんだった。私にとっては青ざめるようなニュースで、ショックだったのは、私はインドは常に米国から独立していると思っていたからだ。ネールは失脚しなかったしアメリカ軍がインド軍に近寄る事もゆるされていなかった。そのことはおさえておきたい。
しかし事態は変わってきている。アメリカは、国をまたにかけたどでかい龍なのだ。千もの基地を持ち、しっかりした戦略ももっている。最新式の無人攻撃機を持ち、サイバー攻撃もできる。あらゆる意味で圧倒的だ。
だからアメリカは日本を(軍事的に対等な)「パートナー」として必要としているわけではなく、同盟国の一部として必要としているにすぎない。日本をその一部として便利に使おうとしているのだと言えると思う。
カズニック:付け加えたい。日本は米国のアジアにおけるもっとも重要な同盟国だった。特に戦後、1949年の中国(共産党の南京制圧)以降はそうだった。日本は中東におけるイスラエルと同等の価値があった。その地域において米国に忠実で、米国の指示を受け入れ、米国の汚い物言いを許す存在だった。
ストーン:野球もやるしね。(笑)
カズニック:イチローは衰えてきたけどね。(笑)
1950年代に入って、ベトナムが勃興しアメリカを悩ませ、マレーシア、フィリピンも力をつけてきた。アメリカはこれらの国が中国のように全部共産化してしまうのではないかと恐れた。
日本がそれで貿易相手国を全部失ってしまい、思いあぐねて中国に進出し、結果として日本も共産化してしまうのではないかと恐れた。それがアメリカが1950年代はじめ、1954年、(フランスが撤退を余儀なくされた)ディエン・ビエン・フー(の戦い)後にベトナムに介入した理由の一つだった。そのとき心配したのはベトナムの事ではなく、日本の事だった。
●質問:どうやったら核廃絶できるか
カズニック:米国内においてはオバマに圧力をかけて、核廃絶にお金をかけ
るようにしむけなければならないと思っている。核廃絶はオバマ自身の公約であり、それを守らせるようにする。NPT(核拡散防止条約)の見直し時期も迫っている。そのときもチャンスだ。
これまで核廃絶はある問題の中の大きな部分を占めてはいたが、それそのものが独立した問題として取り上げられたことはない。キッシンジャー、シュルツ、ペリー、ナン、かれらはみんな核廃絶を呼びかけていたが結局まやかしだった。彼らはベトナム戦争や他の戦争を拡大させた人達だ。
核兵器はもはや軍事的優位にとってかつてほど重要ではない。今アメリカは陸、海、空だけでなく、宇宙、サイバー空間も支配している。ロシアが米国ほど核兵器削減に熱心でない理由は、ロシアにとって核兵器だけが軍事超大国であることを保証するからだ。
アメリカは通常兵器においてもロシアよりはるかに進んでいる。ということはわれわれにとっての問題も大きい。われわれは(核兵器だけでなく)そういったものにかける軍事予算を削減する方法を見つけなければならない。
いまや、中国やロシアは宇宙空間を軍事化することに反対している。なのに、アメリカは今や宇宙空間から下を歩いている人間の瞳を追跡して、それが誰のものか同定し、その持ち主を空から狙い撃ちできるようになろうとしている。監視して、国家の安全を守るために、日本で交わされるすべての会話を盗聴し、メールやネットがどう使われているか調べる。そういうことは、われわれのこれまでのスコープを超えるものだ。
私は死ぬまでに核兵器を廃絶しようとしてやってきた。核兵器はこの惑星の全ての生命を終わらせてしまう可能性があるからだ。しかし、そうした視野を今の状況ははるかに越えてしまっている。核兵器ではないが核兵器に匹敵する大きな問題に直面しているのだ。
いまや単に核廃絶だけではだめだ。つまりこれからは、帝国そのものを終らせる事、軍事化を終らせる事、そして基地を終らせる事、そして宇宙の軍事利用をやめさせる事、そして核兵器の廃絶だ。ジョージ・ブッシュ政権が危険だったのは、かれらが核兵器をより使いやすくしようとしたからだ。
ストーン:(適当に短くまとめた通訳に)その翻訳は、ちょっと短すぎる。
ピーター(カズニック)は5分も話したのに、きみは2分しか話していない。え?、録画してるからいいの?
●質問:広島と長崎の式典の印象は?
ストーン:日本に来る前に本やフィルムを見て、強い印象をすでに持っていた。ピーターは何度も日本に来ている。私にとっては初めてだった。でもここに来て印象が変わったということはない。しかし、骨に肉付きが与えられたように、細部が見えた。
被爆者たちと語り、恐ろしい経験、悲しい経験の詳細を聞いた。原爆が落とされると、ある種のわけのわからない無力感に襲われるということもわかった。広島、長崎ふたつの都市を訪ねてそんなことを感じた。
ピータも言ったが、今ある核兵器のひとつひとつは広島原爆の7千倍の威力がある。そうだっけピーター?
カズニック:いや、そんなことはない、10倍から100倍だ。
ストーン:100倍だってすごいことだ。水爆の中にはそれを起爆するための原爆が入ってるというのを忘れちゃいけない。それが爆発するというのがどんなに恐ろしい事か。
カズニック:補足するが、これまで作られた最大の爆弾は広島原爆の3500倍のものだ。だが、7000倍のものも作ろうと思えばできた。そしてアメリカ人は、実際広島原爆の70万倍の威力の爆弾をつくろうという話もしていた。それは1945年に下院で議論されたものだ。70万倍だ。もう想像もつかない。
ストーン:とにかく日本の人々には感心した。原爆を絶対忘れまいという意
思に感動した。広島、長崎両市の式典はとてもパワフルで記憶というものがどういうものか思い知らされた。記憶が無ければ我々はただの動物だ。日本人はその点とても優れている。
私は安倍首相の事は批判したが、政府の人間がここに来て死者を慰霊するのを見るのはうれしいことだった。アメリカはこのことを知っているのか。アメリカはこの式典に誰か送っているのか?
●会場:ルース(駐日大使)は来た。広島に。長崎には来なかった。
ストーン:そうか。長崎には来なかったと。でも、米国内ではこの式典の事はまったく知られていない。しかし日本人がこのことを忘れまいとすることは大切だ。子供たちもたくさん来ていたが、子供たちには原爆そのもののことだけでなく、なぜそれが落とされるに至ったか、何が戦争を引き起こしたのかその辺をしっかり教えてほしい。日本が1931年に満州を侵略した事なども。
私はそれらを本で読んだ。今回はこの経験をアメリカに持ち帰ってまた考えたい。広島、長崎のことは忘れない。
怒りはある。でもそこには、許しもある。大切なのはこんなことを二度とまた起こしてはいけないということだ。みんな同じ人間なのだと認め合いましょう。
以上
※【参考】関連記事
「ジャーナリスト同盟」通信:本澤二郎の「日本の風景」(1368)
http://blog.livedoor.jp/jlj001/archives/52042732.html