「オクシズ」、つまり静岡県の奥地、大井川の上流の
井川湖まで行って来た。
そう、あのSLで有名な
“大井川鐵道”の走っているエリアだ。
そのうちSLの走る金谷―千頭間の、もっとその先を走るアプト式鉄道の
“井川線(南アルプスあぷとライン)”に湖の上にある不思議な駅が存在することをネットで知り、どんなところなのか見てみたいと思ったのだ。
寸又峡は以前行っているが、この路線が通るあたりの“
接岨峡(せっそきょう)”はまだ見たことがなかった。
井川湖(井川ダム)も別ルートから以前行ったことがあったが、そこへ通ずる接岨峡ルートは今回が初めてだ。
だが、実際行ってみると、道路が整備され、その道路の脇を樹木が囲んでいて、いったいどこがその“接岨峡”だったのか、ほとんど展望がきかない中を通り抜けていたようだ。ふかーい谷底にわずかに青磁色の水の流れを見たところもあったが・・・。
なんだか拍子抜けしたようなうちに、「レインボーブリッジ」などという、小さな看板を目にした。(あの有名な世紀の巨大ブリッジを模した何かと思いきや、後で調べるとこちらが先手のネーミングだったらしい)
まあ、ともかくちょっと脇道に入りその「レインボーブリッジ」なるものを探した。と・・・、眼下のコバルトグリーンの湖水の上に真っ赤な鉄橋が美しく架かっているのを見て驚喜したのだった。
「ああ、これがあの
“奥大井湖上駅”か」
なんだか、とてもふしーぎな雰囲気に包まれた駅だ。
だいたい名称からして“湖上駅”というのが、どこか非現実な世界を醸し出している。湖上に浮かぶ駅・・・、そこにいったい誰が降り立つというのだろう?
まるで宮澤賢治の
「銀河ステーション」を思い起こすようなイメージだ。賢治の世界が夜の銀河の宇宙、こちらの湖上駅は、湖水に浮かぶ真昼の駅といったところだろうか。
気温は35℃くらいあるだろう。車から出て、カメラを向けていてもぼーっと熱気で頭がくらくらしてくるようだ。
ツレはエアコンの唸る車中から決して出てこない。
熱気でむんむんする異常な暑さだ。
何カットか撮っているうち、何やら列車の鉄橋を渡る音がかすかに聞こえてきた。
あっ、電車が来るぞ!
何というタイミングだろうか?
1時間に1本程度しか走っていないその電車が、こともあろうに最高のタイミングで湖上駅に姿を現したのだ。電車は静かにゆっくりと駅に音もなく停まった。
しーんと静まり返った緑の中に、赤い列車と赤い鉄橋が見事なコントラストで横に伸びている。
まさに夢の世界にいるようだ。
深夜眠っているときに見る夢の絵巻のワンシーンを見ているようだった。
人が3人降りて、階段を登って上にある展望台に行くようだ。
それを対岸の上方から、まるでジオラマを眺めるように見ている自分・・・。
ミニチュア模型を動画にしたようなミニチュア効果な世界。
おとぎの国や童話の世界をこの目で見ているような、異様に不思議な光景だった。
案外、こういう風景はアストラルな天上界にはあるものだ。
そういう潜在意識の深層に秘された記憶が浮かんでくるような、夢とうつつが交錯するまさに夢のような光景だった。