帰宅して着替えをしていると、2階のデッキのドア越しに西の空が焼けているのに気がついた。
虫除けの網戸カーテンを開けて外を見ると、かなり劇的な夕焼けのショーが始まっているのが確認できた。
急いで1階まで下りてカメラを持ち出し、再びデッキに出る。
何カットかをズームでアングルを変えながらシャッターを切る。
モニタでプレビューしてみては、再度撮り直す。
このわずか2~3分のあいだが勝負だ。
空の状態は刻々と変わっていき、太陽の輝きも、その光で照り映える雲の様子も瞬間、瞬間変貌していく。
あっと言う間に、ひとしきりの西空のドラマが光彩をすぼめていく。
そういえば予報では明日は台風到来だ。
おかしな経路でわざわざこちらに向かってやって来ると…。
こんな劇的で美しい夕焼け空を見た後で、明日が嵐だなんてどうも思えない。
大抵は明日の快晴を約束された気分で見終わるものだが、どうもこれが嵐の前の静けさになるとは思えないものだ。
2階のデッキからは、その右端に富士山が見えるが、三角屋根の縁がそれ以上富士の位置を中央寄りにはさせてくれない。
真正面に見えるように建てるには、土地の形に自由度がなかった。
もっとも富士山本位に家の向きを変えるほど、富士にこだわりは持ってはいず、ただ、西に開けた大展望がなによりと、この土地に決めたのがその理由で、ただ、やはり画面に富士のシルエットが入るだけで俄然、風景が息づいてリアリティが増すのは確かだ。
本当に富士の稜線の美しさは神々しいのひとことに尽きる。
まさに神の世界を顕現するような存在なのだろう。
黄金の光が窓のロールカーテンの縁から漏れる黄昏時に、夕餉の卓につく幸福のときに…。