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カヤの平高原キャンプ場”の朝は、霧が立ち込める中で始まった。
下界から見れば、ただ山に雲がかかり、その雲の中に居ることに過ぎないのだけれど、高原ではせわしく動く霧中で視界が広く開いたり、また閉じたりとしきりと展開が早い。
時折り、空が開いて、朝日がさあっと射し込んで、辺りの草地が輝く瞬間があったり、なかなかドラマチックな朝だ。
雲の動きによっては、丘の上が翳り、向こうだけが明るくなったりして、ぽつんと立っている樹のシルエットが妙に映えたりすることがある。
朝方の小雨で、草地はけっこう水を含んでいて靴を濡らす。
ただ、その濡れ加減がまた、微妙な緑の色合いの深さを醸し出すようだ。
道の向こうにある立ち姿のいい栃の木。
近づくと、大きな茶色の実を豊穣につけている。
あの掌に握れるほどの大きさの実がトチノミか、よくお菓子などに入れたり、とち餅などにしたりするので聞いたことがあるが、なっている実物を見たのは始めてかもしれない。
朝霧と栃の木。
まさにフォトジェニック感いっぱいの風景。
朝焼けの雲だってけっこうドラマチック。
西洋の聖堂の天井画を見ているようだ。
雲間に残月。
空の底の深さを感じる光景。
辺りを霧に包まれた中でのいつもの朝食。
まだこの高原には誰ひとりとしてやって来ていない。
静まり返った中で、朝霧が淡く風景を透かしていく。
昨晩のごはんの残りは小振りのおにぎりにしておいたので、それをスキレットで焼きおにぎりにした。
普段、朝はこれほど食べることはないのに、なぜかお腹がいくらでも吸収してしまう。
あまりに美味し過ぎて困る、キャンプ飯。
緑の草地の一画だけにこのレモンイエローの花が咲いていた。
このあと快晴になる予感のする空。
明るくなる前まで、しとしと小雨が車の屋根に微かな音をさせていたが、陽が高くなるにつれ、青空が爽快に広がり始めて行った。
そろそろ撤収の時間かと動き始めようとしたところ、牧草地の奥に牛たちの姿が見えた。
思わず口笛を吹いて呼んでみたところ、ちゃんと軍団はこちらに向けて移動を始めた。
どうもリーダーは薄茶色のジャージー牛のようだ。
この先頭のリーダーの動きに全頭が従っているようだ。
ジャージー牛の親方。
我が愛犬の方をずっと見ている。
優しいまなざしで、ウチのわからんちん犬を見つめてくれているのだ。
ウチのわからんちん犬はただ吼えている。
愛情いっぱいの親方に感謝。
とても可愛い牛たちだった。
―おしまい―